東京地方裁判所 平成11年(ワ)23182号 判決 2000年10月31日
原告
日清紡績株式会社
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
西迪雄
同
向井千杉
同
富田美栄子
右補佐人弁理士
【B】
同
【C】
被告
大日本印刷株式会社
右代表者代表取締役
【D】
右訴訟代理人弁護士
赤尾直人
右補佐人弁理士
【E】
同
【F】
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金四億五〇〇〇万円及び平成一一年一〇月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、各種繊維製品、紙製品等の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
被告は、製版、印刷及び製本並びにこれらの製品の販売等を目的とする株式会社である。
2 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。
登録番号 特許第二一二〇九八三号
発明の名称 感熱転写用受像紙
出願日 昭和六〇年二月二五日
公告日 平成六年一〇月二六日
登録日 平成八年一二月二〇日
請求項1に係る特許請求の範囲
「基紙と、該基紙に貼合した発泡プラスチックフィルムと、該プラスチックフィルム上に設けたインク吸収層とから成ることを特徴とする感熱転写用受像紙。」
3 本件発明の作用効果は次のとおりである。
「基紙に起因する搬送性の良さ(基紙のクッション性と表面の適度の凹凸によると考えられる)と、発泡プラスチックフィルムに起因する高い平滑性及びクッション性を兼備しており、裁断が容易で、プリント時に色ずれが生じることがなく、しかもインク転写性の良い感熱転写用受像紙とすることができるのである。更に、発泡プラスチックフィルムのクッション性と基紙のクッション性とが相俟って搬送性をより一層良くすることができる。」
4 被告は、平成六年ころから、業として、合成紙ユポその他ミクロボイドフィルム(以下「ミクロボイドフィルム」という。)、インク吸収層等を積層状態にした感熱転写用受像紙(以下「被告製品」という。)を製造販売してきた。
二 本件は、原告が、被告製品の製造販売が本件特許権を侵害すると主張して、被告に対し、損害賠償を求める事案である。
なお、被告は、被告製品の構成として、別紙イ号物件ないしハ号物件のとおりであると主張するが、原告は、これを争っている。
三 本件の争点
1 被告製品における「ミクロボイドフィルム」が、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」に該当するか。
2 被告製品には、「基紙」が存在するか。
3 被告製品には、ミクロボイドフィルムとインク吸収層との間に白色プライマー層が存するものがあるか、存する場合、本件発明の構成要件を充足するか。
4 原告が被った損害額。
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1について
(原告の主張)
1 「発泡プラスチックフィルム」は、その製法如何にかかわらず、内部に空洞(ボイド)が形成されたために密度が減少し、体積膨張したプラスチックフィルム一般をいうところ、「ミクロボイドフィルム」は、内部に多数の空孔が形成されることにより密度が減少し、体積が膨張したプラスチックフィルムであるから、「発泡プラスチックフィルム」に当たる。そして、このことは、本件特許の出願前から、当業者によって認識されていた。
2 原告が、本件特許に係る出願過程において後記の被告が主張する補正を行ったのは、「ミクロボイドフィルム」が「発泡プラスチックフィルム」に該当しないことを自認したことによるものではなく、特許庁における実務慣行に依拠して処理しようとした審判官の指示に従っただけである。
3 本件発明は、定期券類作成要素の発明に係る公開特許公報(乙一六)等から容易に想到し得るものではない。
(被告の主張)
1 「発泡プラスチックフィルム」は、「発泡を原因として成型したプラスチックフィルム」を意味し、必然的に成型に伴って体積膨張が生じ、かつ成型後の内部には、泡構造(小さい蜂の巣又は中空の球が凝集した内部構造)を呈しているのに対し、「ミクロボイドフィルム」は、プラスチックの延伸加工に際し、予め混入した無機質フィラー(無機質の充填剤)とプラスチックとの間において、ミクロな剥離を起こさせて、フィルムの内部・表面に無数の微細な空洞・亀裂を生じさせたプラスチックフィルムであるから、「発泡プラスチックフィルム」に当たらない。
2 本件特許の出願当時、当業者には、「ミクロボイドフィルム」が「発泡プラスチックフィルム」に当たるとの認識はなかった。
3 原告は、本件特許の出願過程における第三回目の補正において、「発泡プラスチックフィルム」につき、「フィルム内部に微細な気体層又は気体泡層を有し」といった説明部分を付加し、実施例1及び同2の「発泡プラスチックフィルム」の具体例として、東洋紡績株式会社製造のトヨパールSSフィルムを記載したが、最終の補正では、前記「発泡プラスチックフィルム」の説明部分及び前記トヨパールSSフィルムの例を削除した。また、原告は、異議申立てに対する答弁書において、「多孔質熱可塑性樹脂フィルム」(乙一四)は、「発泡プラスチックフィルム」とは異なる概念である旨答弁した。
以上のような出願過程からして、原告が、現時点で、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」が「ミクロボイドフィルム」を包摂すると主張することは、禁反言の原則に反し許されない。
4 仮に、合成紙ユポなどのミクロボイドフィルムが、発泡プラスチックフィルムに該当するのであれば、本件発明は、当業者が、定期券類作成要素の発明に係る公開特許公報(乙一六)等から容易に想到し得るものである。
二 争点2について
(原告の主張)
1 本件発明における「基紙」は、発泡プラスチックフィルムやインク吸収層等を設ける基材、すなわち、これらの層のベース(基)となる紙(上質紙やコート紙等)を意味するのであって、「基紙」が「最下層のベースたる位置」に存在しなければならないものではない。
本件特許権の特許請求の範囲請求項3では、基紙の発泡プラスチックのフィルムを貼合しない面に防水加工を施すことが記載されているから、このことからしても、「基紙」が「最下層のベースたる位置」に存在しなければならないものではないことは明らかである。
2 被告製品においては、紙にミクロボイドフィルムが貼合されているから、「基紙と該基紙に貼合した発泡プラスチックフィルム」が存する。
(被告の主張)
1 「基紙」の「基」は、根底又は根元を意味するから、本件発明において、「基紙」は、発泡プラスチックフィルムやインク吸収層等の根底又はベースとなる層でなければならない。
被告製品においては、コート紙の両側にミクロボイドフィルムの層がある(イ号物件及びロ号物件)か、又は、コート紙の片側にミクロボイドフィルムとインク吸収層があるが、その側とコート紙をはさんだ反対側に、ポリエチレンフィルムの層がある(ハ号物件)から、コート紙は、発泡プラスチックフィルムやインク吸収層等の根底又はベースとなる層ではない。
基紙の発泡プラスチックのフィルムを貼合しない面における防水加工は、基紙の凹凸による良好な搬送性を阻害しないようなものでなければならないところ、被告製品の右ミクロボイドフィルム及びポリエチレンフィルムは、右の機能を阻害するものである。
2 したがって、被告製品には、本件発明の「基紙」は存在しない。
三 争点3について
(原告の主張)
1 被告製品に「白色プライマー層」が存在するか否かは必ずしも明確ではない。
2 仮に、被告製品中に「白色プライマー層」が存在するものがあるとしても、それは、隠蔽性向上などのために設けられていると考えられ、インク吸収層の平坦性を阻害せず、発泡プラスチックフィルムに起因する高い平滑性を損なわない極く薄い層にとどまるものである。そうすると、「白色プライマー層」が存在するとしても、本件発明の作用効果をそのまま保有するから、被告製品が本件発明の技術的範囲に属さないということにはならない。
(被告の主張)
1 被告製品には、ミクロボイドフィルムとインク吸収層の間に「白色プライマー層」が存在するものがある(ロ号物件及びハ号物件)。
2 本件発明の特許請求の範囲の記載及び作用効果からすると、「発泡プラスチックフィルム」と「インク吸収層」との間には、他の物質の介在はあり得ないというべきである。したがって、ミクロボイドフィルムとインク吸収層との間に白色プライマー層が存在するものは、本件発明の技術的範囲に属さない。
四 争点4について
(原告の主張)
1 被告は、原告から本件特許権の実施許諾を得ることなく、被告製品を、平成六年ころから継続して製造販売し、過去三年分の売上金額は、毎年少なくとも五〇億円を下らない。
2 本件特許権の通常実施料は、これを実施した製品の売上金額の三パーセントをもって相当とするから、被告は、原告に対し、被告製品の過去三年分の合計売上金額一五〇億円に本件特許権の通常実施率三パーセントを乗じた四億五〇〇〇万円を支払う義務がある。
(被告の主張)
原告の主張はすべて争う。
第四当裁判所の判断
一 争点1について
1(一) 前記第二の一の事実並びに証拠(乙一ないし八、二一ないし二四、二六、三四、四二ないし五八)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 昭和四〇年代から昭和五〇年代にかけて発行された刊行物(乙一、四、二三、二四)には、「発泡プラスチック」について、①機械的に泡立てする方法、②気体又は低沸点液体を樹脂中に混入する方法、③加熱によって気体を樹脂中に放出するような発泡剤を樹脂に含有させる方法、④発泡基を高分子に結合する方法などによって、樹脂を発泡させたプラスチックを意味する旨の記載がされている。昭和五二年に改正されたJIS規格(乙二六)において、「発泡プラスチック」が定義されているが、その内容は、右刊行物と同様の内容である。
(2) ミクロボイドフィルムは、フィラー(充填材)を混合したプラスチックを押し出しシート状に成形した後、延伸加工を行い、その際、混合したフィラー(充填材)とプラスチック素材間に亀裂が生じるような応力が加わり、これによって、空隙(隙間)が生じるプラスチックフィルムを指す。合成紙ユポは、ポリプロピレン樹脂にフィラーを入れて二軸延伸し、内部に多数のミクロボイド(微細な空隙)を生じさせたミクロボイドフィルムで、昭和四七年に発売された。
(3) 右(二)のミクロボイドフィルムの製造方法を、右(1)の刊行物等に記載された「発泡プラスチック」の製造方法と対比すると、明らかに異なる方法である。
(4) また、昭和四〇年代から昭和五〇年代にかけて発行された刊行物(乙二、四、六)においては、ミクロボイドフィルムは、「発泡プラスチック」のフィルムとは異なるものとして分類されている。
なお、右刊行物のうち、乙一は、「発泡プラスチック」について、「熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を何らかの方法によって体積膨張させた低密度のプラスチックである。膨張の結果、その内部は小さな蜂の巣あるいは中空の球が凝集したような細胞構造、すなわち、泡構造をとっている。」と記載した後、右(1)認定に係る製造方法を記載しているものと認められ、右の記載の前半部分、すなわち、「熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を何らかの方法によって体積膨張させた低密度のプラスチックである。」という部分を抽象的に見た場合には、ミクロボイドフィルムも、これに含まれるように見えるが、右(2)認定に係るミクロボイドフィルムは、右の記載の後半部分、すなわち、「膨張の結果、その内部は小さな蜂の巣あるいは中空の球が凝集したような細胞構造、すなわち、泡構造をとっている。」には必ずしも該当しないばかりか、右(1)ないし(3)認定のとおり製造方法も異なっているから、ミクロボイドフィルムが、乙一の「発泡プラスチック」の定義に該当すると認めることはできない。
(二) 原告が、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に含まれるとして提出する証拠のうち、甲五ないし一〇、甲一一の一、甲一二、一三、一六、二五、二六、三八ないし四〇は、いずれも本件特許出願よりも後の出願に関する特許公報であるから、これらに、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に含まれる旨の記載があるとしても、その記載を直ちに本件特許出願当時の当業者の認識を示すものと認めることはできない。
証拠(甲一七の一ないし三)によると、昭和五七年ころに外国で発行された刊行物には、「二軸延伸されたポリプロピレン」という項目の解説中に「真珠様の光沢を持った不透明で発泡したポリプロピレンフィルム」との記載があることが認められる。しかし、証拠(甲一七の一ないし三)及び弁論の全趣旨によると、右刊行物には、「二軸延伸されたポリプロピレン」がミクロボイドフィルムに当たることを認めるに足りる記載はないものと認められる。
証拠(甲一八の一ないし三)によると、昭和五九年ころに外国で発行された刊行物には、二軸延伸、白色・不透明PPフィルム「0ppalyte247」についての記載があることが認められるが、これが「発泡プラスチックフィルム」である旨の記載であるとは認められない。また、証拠(甲一八の四)によると、オンライン検索システムの右刊行物に関するキーワードは「発泡プラスチック」であると認められるが、これは、本件特許出願後の時期に、オンライン検索システムにおいて右のような取扱いがされているというにすぎないから、直ちにそれが本件特許出願当時の当業者の認識であると認めることはできない。
証拠(甲三六の一ないし三)によると、昭和五八年ころに外国で発行された刊行物には、BCL社のフィルム「ShorkoーP」という記載とともに、「発泡させたこと自体」という記載のあることが認められる。しかし、これらの記載の関連性は明確ではなく、これらの記載は、「発泡プラスチック」の定義やそれに含まれるものを直接述べたものではない。また、証拠(甲三六の四)によると、オンライン検索システムの右刊行物に関するキーワードは「発泡プラスチック」であると認められるが、これは、本件特許出願後の時期に、オンライン検索システムにおいて右のような取扱いがされているというにすぎないから、直ちにそれが本件特許出願当時の当業者の認識であると認めることはできない。
証拠(甲三七)及び弁論の全趣旨によると、昭和五九年九月に発行された刊行物には、ミクロボイドフィルムである東洋紡績製のトヨパールが発泡ポリプロピレンフィルムに該当する旨の記載があることが認められ、この記載は、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」である旨の記載であると認められる。しかし、証拠(甲三七)及び弁論の全趣旨によると、右刊行物では、トヨパールについて「内部微少空洞状の特殊フィルム」と記載し、右(一)(1)で定義された「発泡プラスチック」である三井東圧化学製のサニパールについて「独立気泡を有する発泡フィルム」と記載されているのとは異なった記載となっている。
証拠(甲四七)及び弁論の全趣旨によると、昭和五八年一一月に発行された刊行物には、二軸延伸ポリプロピレンフィルムという表題の下に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの種類が記載されており、その中に「白色不透明で真珠の持っている優雅で高貴な光沢を持ち、独立気泡の発泡フィルムで軽くソフトな感触を持っているパール調タイプのOPPフィルム」の記載があること、それとは別に、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの特性を述べたところに、ミクロボイドフィルムとして知られているフィルムの特性が掲げられていることが認められる。しかし、この記載は、以上のとおり「発泡プラスチック」の定義やそれにミクロボイドフィルムが含まれるかどうかを直接述べたものではない。
その他、本件特許の出願当時、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に当たる旨の記載がある文献が存した事実を認めるに足りる証拠はない。
(三) 証拠(甲二七)によると、京都大学名誉教授【G】の鑑定意見書には、「発泡プラスチック」は、「セルラープラスチック」と同義であるところ、ミクロボイドフィルムは、「セルラープラスチック」に含まれるから、「発泡プラスチックフィルム」に当たる旨の記載がある。しかし、証拠(甲二七)及び弁論の全趣旨によると、右鑑定意見書は、辞典等によって、個々の言葉の抽象的な意味を確定して対比するという方法によっており、実際に「発泡プラスチックフィルム」やミクロボイドフィルムといった言葉が用いられている資料を集めて分析したものではない上、その論拠となっている辞典も、「セルラープラスチック」の意義を確定するためにいまだミクロボイドフィルムが存在しない時期の辞典を用いるなどしているから、直ちに信用することはできない。
(四) 以上の事実によると、本件特許の出願当時、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に当たる旨の記載がある文献が一部にあったが、多くの文献は、ミクロボイドフィルムと「発泡プラスチックフィルム」を別のものとして記載していたことが認められるから、本件特許の出願当時、当業者において、ミクロボイドフィルムが「発泡プラスチックフィルム」に当たるとの認識があったとは認められない。
2 証拠(甲一)によると、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが含まれる旨の明示の記載はない。もっとも、証拠(甲一)によると、本件明細書の「課題を解決するための手段」には、「この発泡プラスチックフィルムにはフィラーを混用したりすることもできる」との記載があることが認められるが、本件明細書には、それ以上に「発泡プラスチックフィルム」の製造方法についての記載があるわけではないから、右記載をもって、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが含まれるということはできず、他に、本件明細書に、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが含まれることを示す記載があるとは認められない。
3(一) 前記第二の一の事実並びに証拠(乙九の一ないし六、乙一二ないし一七)及び弁論の全趣旨によると、本件特許の出願経過について、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和六〇年二月二五日、本件特許出願をしたが、出願当時の特許請求の範囲請求項1は、「基紙と、該基紙に貼合したプラスチックフィルムと、該プラスチックフィルム上に設けたインク吸収層とから成ることを特徴とする感熱転写用受像紙。」というものであった。
(2) 原告は、平成六年四月四日、特許請求の範囲請求項1を、「基紙と、該基紙に貼合した発泡プラスチックフィルムと、該プラスチックフィルム上に設けたインク吸収層とから成ることを特徴とする感熱転写用受像紙。」と補正するとともに、「発明の詳細な説明」中の「課題を解決するための手段」に、「この発泡プラスチックフィルムは、フィルム内部に微細な気体層又は気体泡層を有し、・・・」という記載を、実施例1及び2に「東洋紡績製、トヨパールSSフィルム」という記載を追加した。
なお、東洋紡績製トヨパールSSフィルムは、ミクロボイドフィルムとして広く知られている製品である。
(3) 原告は、平成六年六月七日、拒絶理由通知を受け、同日、右(2)のうち、追加した部分の各記載を削除する補正を行った。
(4) 本件特許は、平成六年一〇月二六日、公告された。
(5) 公告後、特許異議の申立てがされた。原告は、特許異議答弁書において、「合成紙ユポは発泡プラスチックフィルムである。」と主張した。特許庁は、平成八年六月二七日、右異議申立ては理由がない旨の決定を行ったが、同決定において、「ボイドとは隙間、割れ目、空隙、間隔を意味する用語であり、その製造過程からみても、ミクロボイドを有する合成紙ユポが発泡プラスチックフィルムであるとは認められない。」と認定した。
(二) 以上の経過に右2認定に係る本件明細書の記載を総合すると、原告は、本件明細書の「発泡プラスチックフィルム」にミクロボイドフィルムが含まれることを示す記載を追加する補正を行ったが、後に、補正によって、その記載を削除したことが認められる。この事実は、原告において、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」からミクロボイドフィルムを除外したと解されるような行動をとったものと認められる。
4 以上の1ないし3で述べたところを総合すると、本件発明の「発泡プラスチックフィルム」に「ミクロボイドフィルム」が含まれるものと認めることはできないから、被告製品は、本件発明の技術的範囲に含まれるとは認められない。
二 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 杜下弘記)
<以下省略>